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【 第五回 】 「星の王子様」

 ゴールデン・ウイーク最中の5月2日に、銀座松屋で開催中の「星の王子さま展」(4月25日から5月7日まで)を美智子皇后さまもご鑑賞になられたことがテレビで報じられていた。美智子皇后さまは、昭和38年に献上された翻訳本で、初めて「星の王子さま」をお読みになられたという。献上したのは翻訳者の内藤濯(ないとう あろう)で、今回の展覧会でも皇后さまをご案内したのは、ご子息の内藤初穂氏(文学者)であった。皇后さまは「星の王子さま」への思いを強くもたれて、これまでも「星の王子さま朗読会」に何度か参加なさったと伺っている。また、内藤濯が献上の際に添えた歌があり、皇后さまはそれに曲をつけられた。テレビでもその曲が流れていた。

 ずっと前から「よい本だ」と聞いていて、本屋さんでも何度か手にしながら、今まで読むことを怠っていた。「もうこの機会を逃してはなるまい」と、まさに「恥かき読書」をこのゴールデン・ウイークに果たしたのである。テレビを観た直後に、本屋さんに駆け込んで、内藤濯版(オリジナル版)と中高校生向けに三田誠広が翻訳した新版を購入してきて一気に読んだ。両方とも読んでみて思うのは、三田版が現代風の文章に書かれているので、登場人物に馴染みやすいかも知れない。ただ、両者とも原作者の言わんとするところはしっかりと捉えていると思う。まだお読みでない方も、昔読んだことがある方も、どうぞ入手できるものを一度とは言わず何度かお読みになることをお勧めする。

 「星の王子さま」は、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(略してサン=テグジュペリと呼ばれる)の名作である。本の正式な題名は“Le Petit Prince”(「小さな王子さま」)であるが、日本では最初に翻訳した内藤濯が、「星の王子さま」と翻訳したので、我が国では「星の王子さま」で通っている。この本は童話として世界に広く読まれている。しかし、大人になってから再読して感動を覚えたという人が多く、この本の魅力は、その辺りに謎が隠されているのだろう。あまり教条的にならないように気をつけながら、その魅力を探っていきたい。

 サン=テグジュペリは1900年にフランスリヨンで、伯爵家の長男として生まれた(二人の姉がいる)。父を四歳で亡くし、母方の家で裕福なうちに育てられた。当時の世界での関心事は飛行機であった。サン=テグジュペリ少年も飛行機に熱中した。長じて海軍兵学校の試験を受け失敗するが、飛行機に乗ることを諦めなかった。その後兵役に招集され、ここで民間操縦も空軍の操縦も資格をとる。サン=テグジュペリの長くない人生には戦争と飛行機事故の災いがついて離れない。33歳、34歳、35歳、38歳と四度も不時着、着地失敗という事故に遭遇し重傷を負った。35歳のときにリビア砂漠に不時着した経験が、後の「星の王子さま」に生きてきたと思われる。44歳のとき空軍に復帰したサン=テグジュペリは偵察に出たまま帰ってくることはなかった。「星の王子さま」という作品が生まれたのは行方不明になる2年前の42歳の時。その翌年にアメリカで出版された。

 「星の王子さま」物語は、飛行機乗りのボクが砂漠に不時着し、飲み水も一週間くらいしか持っておらず不安な思いをした六年前の体験を話すという形で始まる。砂漠の中で心細い一夜を明かして目が覚めると、「ねぇ・・ヒツジの絵を描いて」と小さな声で言っている王子さまがそこにいた。それから王子さまとボクの砂漠の中での不思議な数日が始まるのであるが、王子さまが地球以外の星から現われたこと、自分の星に別れを告げなければならなかった悲しい出来事、その後に続けられた王子さまの不思議な旅の話、六つの惑星に住む大人との会話、そこから得られる大人であるが故の弱点をボクはだんだんと王子さまから聞き出すのである。

 王子さまは目の前に現われる人であれ、動物であれ、植物であれ、みんなと話は出来るし、友達になりたいと願っている。自分が分らないことは納得するまで質問をする。王子さまには地球も他の惑星もない、そこに住んでいる人、咲いている花、ヘビ、キツネなど生きている動物にも真正面から向き合う。「友達になって」と呼びかけるのである。誰もが大人になるまでに失ってしまう夢や純粋さを、ボクは王子さまが話してくれる中から改めて思い知らされる。今までに考えたことのない世界を見ることになる。

 ボクは飛行機の修繕をしながら王子さまの質問に答え、王子さまの話を聞き、王子さまがどのような経過を辿って地球に舞い降りてきたかを知ることになる。自分の住んでいた小さな惑星から飛び出してきたこと、他の惑星から飛んで来た種が今まで見たことのない花を咲かせ、友達になり、そして別れてきたこと。地球に来るまでに六つの惑星を旅してきたこと。最初の惑星に住んでいた王様から六番目に会った地理学者まで、その他にうぬぼれ男、呑み助、実業家、街灯の点灯夫と交わした会話、それぞれの男が大人になって抱えている哀しさを語る。ただ、王子さまは五番目の星に住んでいた点灯夫とは友達になりたかったのだが、その惑星はあまりにも小さくて二人で居ることが出来ない惑星であった。

 六番目の惑星に住む地理学者、彼は自ら探検することなく、探検者から話を聞いて資料を作る地理学者である。その地理学者に教えられて王子さまは地球の砂漠に舞い降りてくる。そこには月の色をした輪になって動いている一匹のヘビがいた。そこがアフリカの砂漠だとヘビに聞かされる。ヘビは「いつかあんたが自分の星に帰りたくなったら助けてあげる。そのときはここに戻っておいで」と言われる。ここから先の物語を書くのはもう止めにするが、その後、王子さまはこの砂漠の中でボクと出会い、この砂漠で王子さまとボクは悲しい別れをすることになるが、是非とも詳しい内容は本を読んで確かめて下さい。

 とはいえ、印象的な場面を一つ。王子さまがキツネと仲良しの友達になり、そのキツネと別れるときに聞かされる「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは目には見えないんだよ。」というフレーズがある。キツネに言わせた「心で見る」ことの大切さはたしかに身に覚えがある。子供の頃に持っていた純粋なものの見方、考えが大人になるにつれて、へ理屈をつけ不順になり、ひねくり回して自らを窮地に追い込んでいる。解っているのにこれが止められない。サン=テグジュペリの苦悩は、現在の人間達の苦悩でもある。サン=テグジュペリがこの本の冒頭に、親友レオン・ウェルトに書いた献辞がある。しかも「子どもだったころのレオン・ウェルトに」である。これが読者の胸を打つのではないか。

 さらにもう一つ印象的な話を。王子さまと会った三日目の日に王子さまから聞かされたバオバブの話である。ボクの描いたヒツジの絵を見ながら「ヒツジは木を食べてくれるかな」という話になり、王子さまの星にある、放っておいたらもの凄く大きな木に繁殖するバオバブという恐ろしい木の話を聞かせてくれる。「朝、起きたら顔を洗ったあとで、バオバブがまだ小さなうちに根気よく抜き取っておかねばならない。地球の子供達にもバオバブの絵を描いて、その恐ろしさを教えてよ」と王子さまはボクに聞かせたのであるが、このバオバブとは、サン=テグジュペリが「戦争の恐ろしさを象徴させている悪い植物である」と「あとがき」に記されているが、これを承知して読むと一段とサン=テグジュペリの主張底流が伝わってくる。

 最終の場面は、王子さまが地球に舞い降りたときにヘビと交わした約束の場所に近づきつつあったところで、ちょうど、そこでボクと出会い、この数日間を一緒に過ごしていたのだということが判ってくる。飛行機の故障が修復したことを知っている王子さまも、いよいよ自分の星に帰る覚悟をする。帰るということはヘビに咬まれることなのである。ここで交わされるボクと王子さまの会話は、是非ともご自身で本を読んで下さい。(応援団子A)


〔註〕サン=テグジュペリ作 内藤 濯 訳 「星の王子さま」岩波書店
   サン=テグジュペリ作 三田誠広 訳 「星の王子さま」講談社 青い鳥文庫

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